+++ SHAKE +++



神羅カンパニー出社時刻午前八時過ぎの総務部全課オフィス内の状況。(総務部雇用管理課調べ)

総務部23名、任務遂行もしくは各々デスクワーク中。

総務部調査課、通称タークス1名、レノ、未出社。


・・・・・・・・・・遅刻者1名、タークス、レノ。


ずらりと並んだデスクの横を通り抜けるごとに、パチパチとキーを叩く音が一瞬だけ鈍くなるのがわかる。

本日のデスクワークに勤しむ総務部の社員たちの瞳に、その一瞬だけ赤い色が映る。

しかし総務部の門をくぐって三日も経った者であれば誰であっても、それについて深く考えることはしない。

一番奥の扉、調査課のオフィスに消えていく男の姿。八時二十五分前後の日常。


本日の遅刻者のデスクには、昨日のデスクワークに使用した分厚いファイルが数冊と、

繋がった文字のメモ、黒い灰皿、似たような鍵が束にされてジャラジャラ小さく散らばる。

その中央に一枚の紙切れがキチンと正面を向いて存在を主張していた。レノはそれを手に取った。

ざわめきというには少し物足りないが、やはりパチパチという音がこの部屋にも響いている。

一瞬たりとも乱れずに。


「今月から始まったんだ。」

一瞬たりとも乱れないその音をかきわけて、目を通す書類をそのままにツォンが告げた。

「社員が会社から請求した額が出ている。先月のだ。用途を記入して会計課に提出するように。」

一瞬たりとも乱れないその音とは裏腹に、タークス他2名の瞳は赤を映した。

「・・・それは、困るぞ、と。」


タークス、先々月の引き落とし金額とその用途。(タークス主任調べ)

タークス主任、ツォン、無し。

ルード、100ギル。用途、ポーション購入。

イリーナ、無し。(ただしマテリアの現物支給あり。)

レノ、3700ギル。用途、不明。(個人的な出費と判断。)


「・・・これは、困ったぞ、と。」


パチパチと鳴る、音。


午後九時現在の総務部全課オフィス内の状況。(総務部雇用管理課調べ)

残業被通知者6名、うち1名は調査課、タークス主任のツォン。

それに加えて残留1名。タークス、レノ。


調査課には三種類のタバコの匂いと、コーヒーの匂いが舞い残っていた。

パチパチという音は午後七時を過ぎると干満になり、次第に減っていった。

引き換えに、色濃くなっていくレノの唸り声。

頭を抱えて今にも机に突っ伏しそうな姿勢は、だが数時間保たれていた。

一方ツォンは一日中でも同じ姿勢で書類と向き合っていられるのではないかと思われたが、

一つ大きく息を吐くと、崩して机越しに斜めにレノへ書類を突き出した。


「参考までに。」

早々とデスクワークを終えて帰社した同僚の、引き落とし額ならびにその用途の記された紙。

「助かるっス」

うらめしい思いに駆られながらも、それを真面目に覗きこむ。

「このルードの用途の、ソルジャーのスカウトってどういう意味っスか、と。」

「餌で釣ったというわけだ。」

スカウトされた者はどうせ魔晄漬けの運命である。

戦闘能力に秀でていれば、たとえモノに釣られるような人間であろうと一向に問題は無い。

「なるほど、と。じゃあこのイリーナの衣装代ってのは・・・」

「コルネオの館の調査だろう、潜入用ドレス、カツラもろもろ経費から落としたらしい。」

「・・・あいつ、経費から落としたドレス持って帰ってたぞ・・・と。」

「他人のことを言う前に自分のことをどうにかしたらどうだ。会社の金を娯楽に使い込むな。だいたい・・・」

「あれ、主任、ハイポーション購入って・・・」

果てしない説教へと続く道を打ち切って、レノが声を上げる。


「・・・戦闘でな。」

「珍しっスね。慣れないことはするもんじゃないっスよ。と。」

「・・・・・・全くだ。」

ツォンが少し口ごもるが、このときのレノは気づかなかった。

そして促されるままに記入をどうにか終わらせた。

もちろん、用途は居酒屋や染髪料などなどと書くことをこの主任が許す筈もなく、架空の事態を想定しながら。


「ここにもお花、咲いてなかったの。」


それから幾日かたって、レノは久々に女を目の前にしていた。

彼女、エアリスとは目的を同じくする敵同士で、こうして対面することは少なくなかったが、

お互いに仲間と離れていて二人で会うときは、まるでミッドガルにいた頃のようだった。

エアリスの足元には小さな花。太陽は少し近すぎるけれど、そこはあの教会と何も変わらない。


「けど、空気も大地も悪いわけじゃないから、ゼッタイ咲くんじゃないかって、

ここに滞在している間だけでも、って思って毎日通ってたの。そうしたら、ほら。きれいでしょ?」


本当に何も変わらない。

とても近くにいたあの日々を自分でも気づかないうちに慕っていたレノの顔がほころびかけたときだった。


エアリスの台詞。

「ツォンにお礼、言っておいてね。」

何でだと尋ねるよりも先に表情に出たが、花に視線を注ぐ彼女は気づかない。

「この町、ガラの悪い人が多くて。何週間か前かな、お花の世話をしてたら、からまれたの。

無視しようと思ったんだけど、その人たち、酷いの!お花、踏もうとしたんだよ!

そうしたら、ちょうどツォンが現れて、お花、助けてくれたの。

戦闘になっちゃって、でもツォンが全部かばってくれた。

だから、彼、怪我しちゃったんだけど、手当てする間もなく帰っちゃったから。

お礼もまだ言ってないのよ。ね、レノ、伝えてね。お花、咲いたよ、ありがとうって。」


そして話し終えて再び花に向けられる、極上の笑み。

この微笑みは、紛れも無くツォンのものだ。面白くない状況、けれど目の前の彼女は可愛くて。

抱きしめてしまってから、思い出したのは、幾日か前の会社での出来事だった。

珍しく戦闘したツォン。ハイポーションを買ったツォン。

「それじゃ女に注ぎ込んだのと同じだぞ、と。」


―――ますます不機嫌になるレノ。


「・・・かっこわるいぞ、と。」

ボソボソ声で言っても、密着するエアリスへは体中を振動してでも、すぐ耳元からでも聞こえていた。

「なに?ひとりごと??」

きゅっとレノの服の裾を掴んだエアリスが身じろぎする。

ますます腕に力を込めるレノが、今度はエアリスへの言葉を耳元で呟いた。

「もう踏まない。」


だけれど、自分の中に渦巻いているものとは全く違う言葉。

本当に言いたいのは、こんなことではなかったが、どちらにしろ、言う必要はない言葉。

「え?なに??レノ、お花踏んだの?!」

エアリスが顔を上げると少しお互いの身体が離れてしまう。

その距離を埋めるように、細い腰を引き寄せて唇を奪う。


「一回だけ踏んだぞ、と。教会で。クラウドって奴と会ったとき。」

「そーなの?!ひどーい、ツォ、・・・」

他の男の名前を封じ込めてキスする。二度、三度と。

「おねえちゃん」

呼ぶが、返事を封じ込めてキスをする。四度、五度と。

「エアリス」

深く深く。重ねて、重なっていく唇。

白い指で遮って、それを終わらせたエアリスが心配そうな瞳にうっとりと恥じらいを込めてレノを見つめ、言った。


「どうしたの?・・・なにか、あった?」

それが男に甘い不愉快をもたらすことを彼女は知らない。

これは、ヤキモチというんだ、と、教えてやりたくて、けれど知られたくはなくて。

「別に、と。」

「じゃあ、どうして・・・」

再び触れた唇。軽いキスは鎮静効果を持つ。


「これはな、おねえちゃんを買ってるんだぞ、と。」

「・・・?意味、わからない。それに、買うって、そんなの・・・なんか、やだ。」

少しむくれた頬をなでる指で誘いながら、笑って言う。

「・・・やだ?だけどおねえちゃん、自分も重ねるんだから一緒だぞ、と。」

少しむくれた赤い頬をなでる指が誘う。

「ん。」

引き寄せるのか、引き寄せられるのか。


「全部オレが買う。だから・・・・・・」



+++ END +++



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